このブログでは以前ウェイブについての解説を行いました。そのウェイブとあわせて知っておきたいのが"バイアウト"という用語です。
シーズン後半になるとよく耳にするこのバイアウトという言葉ですが、直訳の「買収」という日本語でイメージしていると理解しにくいのが罠ですね。筆者がそうでした。
ですので今回はそんなバイアウトについての解説をしていきたいと思います。
予めこちらのウェイブに関する記事を読んでいただくことで、今回の記事の内容がより理解しやすくなっています。
「用語で解るNBA」とは
このブログは知識0からNBAが解るということをテーマにしています。
「用語で解るNBA」では単に用語の意味を知るだけでなく、その用語を通じてNBAを理解していくことが目的です。
この記事では"バイアウト"という用語を詳細にではなくざっくり解説します。
その中でもテーマや図解を交えることで納得してNBAを理解できるようになっています。
押さえておきたいポイント
"バイアウト"を理解するために押さえておきたいポイントはざっくりとこんな感じです。
- "バイアウト"って何?
- ウェイブとは何が違う?
- 何を交渉してるの?
- いつ・どんな状況で行われる?
- バイアウトのメリットは?
- 過去にどんなバイアウトがあったの?
ではこれらの疑問をしっかりと解決できるように、"バイアウト"について説明していきます。
バイアウトとは
ここではまずバイアウトに関する基本的な概要について紹介していきます。
「そもそもバイアウトとは何か」「ウェイブとはどう違うのか」「どんな交渉が行われるのか」というポイントに注目して見ていきましょう。
バイアウト
バイアウトとはざっくりと説明するなら、「双方合意の元で」チームが選手を放出することです。
この「双方合意の元で」というのがバイアウトを理解する上で最も重要なポイントであり、ウェイブとの一番の違いでもあります。
次に混同しがちなウェイブとの違いについて詳しく見ていきましょう。
ウェイブとの違い
ウェイブとバイアウトそれぞれを日本語で表すなら、ウェイブ=「解雇」、バイアウト=「退団」と言い換えることができます。
ウェイブ=「解雇」 バイアウト=「退団」
この2つはともに「チームが選手を放出する」というもの。
しかしチーム側の意向で一方的に選手を放出するウェイブと違って、バイアウトの場合は放出する前に交渉と合意がなされているというわけなんです。
ではそのウェイブとの違いを、一連のプロセスからも確認しておきましょう。
バイアウトのプロセス
前の記事でも紹介しているように、ウェイブの際には以下のような一連のプロセスが行われます。
一方でバイアウトの場合には先述の通り、放出する前の段階で交渉と合意が行われます。
この図からもわかるように、バイアウトも結果的にウェイブと同じプロセスを行っています。
要するにバイアウトとは「交渉・合意+ウェイブ」という流れで考えてもらうと理解しやすいと思います。
では先ほどから出てきている「交渉と合意」という段階で一体どんな内容を交渉しているのでしょうか。
次はその辺りを紹介していきます。
交渉する内容
ウェイブの場合と同様にバイアウトでも契約を途中で打ち切って選手を放出した後には、その契約の保証サラリーを元所属チームが支払っていきます。
ここが焦点です。
⑴ 選手をウェイブする
⑵ 保証されているサラリーを減らす
つまりどうしても今のチームから出てFAになりたい選手は、保証サラリーを減らしたり無くしたりすることでチームから放出してもらうわけです。
例えば契約で$3Million保証されている選手が「保証サラリーを$1Million減らしてもいいからチームから出て行かせてくれ」みたいな交渉をするということです。*1
チームからすれば在籍していない選手のサラリーを払っていくことになりますし、その保証サラリーはチームサラリーに計上され続けるので、なるべく負担を減らした上で放出したいということですね。
このような交渉が行われ、双方が合意した場合にはバイアウトという形でチームは選手を放出するんです。
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- バイアウトとは双方合意の元でチームが選手を放出すること
- ウェイブ=「解雇」バイアウト=「退団」
- バイアウト=「交渉・合意+ウェイブ」
- 退団後の保証サラリーを減らしたり無くしたりする交渉を行う
バイアウトが行われるのは...
ここまではバイアウトというものをウェイブと比較しながらざっくりと解説してきました。
ここからはそのバイアウトが「いつ頃に行われるのか」「どんな状況の場合に行われるのか」「逆に行わないのはどんな場合か」など少し踏み込んで見ていきましょう。
いつ頃?
バイアウト自体は基本的にいつでも行うことが可能です。
ですが実際にはトレードデッドラインを過ぎた後に活発になります。いわゆる「バイアウト市場」の開幕です。
このバイアウト市場は実質的に3/1に終了します。
というのも3/1以降にウェイブされた選手はその後チームと契約してもプレーオフのロスターに入ることができないんです。
つまりこのトレードデッドラインから3/1までのバイアウト市場がプレーオフに向けてチームを補強する最後のチャンスということになります。
どんな状況で?
バイアウトは「ベテラン選手」と「優勝争いから離れた下位チーム」との間で行われる場合が多いです。
一体なぜでしょうか?
ある程度収入も安定しているベテラン選手にとって、限りある現役生活のモチベーションとなるのはお金よりもチャンピオンリングやプレータイムです。
一方で下位チームはある程度シーズンが進みプレーオフ出場も厳しいとなってくると、チーム方針に関して大きく舵を切ります。
低い順位でシーズンを終えて次のドラフト上位指名権(ロッタリーピック)を獲得するために、なるべく試合で負けることを目指すようになるんですね。
そうなるとチームとしてはベテランをベンチに座らせて、若手選手をしっかりと実戦で育成しつつ試合には負けるというような方針をとるわけです。
このように「短期的に優勝を目指したいベテラン選手のビジョン」と「将来に向けたチームの長期的なビジョン」とのギャップが大きくなることで、バイアウト要求に繋がっていきます。
逆に行わないのは?
不満を感じている選手が放出を望んだ場合にも、チーム側がバイアウトを行わないパターンも当然あります。
例えばジャリル・オカフォーは当時所属していた76ersに対して放出を要求しました。
チームはバイアウトでの放出よりもトレードの方がメリットがあると考え、オカフォーはネッツへとトレード移籍します。
バイアウトとはあくまで双方の合意の元に行われますので、ビジネス的なメリット・デメリットという要素が大いに関わってきます。
ということで次はバイアウトのメリットやデメリットをしっかりと確認していきましょう。
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- ベテラン選手が下位チームにバイアウトを要求しがち
- ベテラン選手はお金よりチャンピオンチングやプレータイムが欲しい
- 下位チームはなるべく負けてドラフト上位指名権が欲しい
- メリットが少ない場合にチームはバイアウトに応じないことも
メリット・デメリット
ここではバイアウトが実施される状況をより理解するため、選手目線とチーム目線のそれぞれからメリット・デメリットを確認しておきましょう。
選手目線
メリット ⑴ チームから出てFAになることができる
先述の通り、バイアウト後にウェイバーをクリアした選手はFAとなりどのチームとでも自由に契約できるようになります。*2
メリット ⑵ 優勝争いに加わることができる場合も
プレーオフに進出するチームは最後の補強としてバイアウト市場で選手を獲得することがあります。
そういったチームと契約することになれば、下位チームから一転優勝争いに加わることが出来るかもしれません。
デメリット ⑴ もらえるサラリーが減る
あくまで選手が望んだ上でのことではありますが、バイアウトでチームから放出される際にはもらえるサラリーが減ってしまいます。
デメリット ⑵ 他チームからオファーがあるとは限らない
バイアウト後にFAになったとしても、他のチームからオファーがあり契約できるという確証はありません。
望んでいる条件(プレータイムやチーム状況)のチームからオファーが来なかった場合にはそのままシーズンを終えることもあります。
チーム目線
メリット ⑴ お金を節約できる
チームがキャップスペースを空けたいという場合にバイアウトでの放出が有効になってきます。
トレードで新たな契約を受け入れることなく不満を持った選手を放出し、長期的なチーム作りを進めることができるというわけです。
メリット ⑵ 選手フレンドリーなチームだと示すことができる
選手の希望通りに放出することは、そのチームが選手の意思を尊重してくれる選手フレンドリー(選手ファースト)なチームだと示すことになります。
他の選手からするとこれはチーム選びにおいて魅力的な要素の一つですので、将来的にFAで選手を獲得する際に役立ってくるんです。
逆に選手を飼い殺しにするようなチームに選手は行きたくないですからね。
デメリット ⑴ 高額なサラリーが残ることも
大型契約を結んでいる選手がバイアウトでの移籍を希望した場合には、減額したとしてもチームに大きな負担が残ることもあります。
例えば当時シカゴブルズに所属していたドウェイン・ウェイドは親友のレブロン・ジェームスと再びプレーするためバイアウトでチームを離れることになりました。
このとき保証サラリー$23Millionのうち$8Millionを減らすことに合意したものの、$15Millionというマックス契約選手のサラリーに匹敵する負担が残ることになってしまいました。
デメリット ⑵ トレードと違って見返りがない
先述の通りシンプルにキャップスペースを空けたい場合にバイアウトは有効ですが、トレードで選手を放出する場合とは違ってドラフトピックや選手といった実際の見返りは受け取れません。
あくまで一例ではありますが、このように選手やチームのメリットなどを理解した上でバイアウト市場を見てみると、より一層シーズン終盤を楽しめるかもしれません。
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過去のバイアウト例
ここまで解説してきた内容を踏まえて、昨シーズン(2018-19)に実際に行われたバイアウトを見ておきましょう。
エネス・カンター
ニューヨーク ニックス(当時)
シーズン開幕当初スターターを務めていたカンターですが、中盤からはベンチスタートとなり次第にプレータイムも少なくなっていきました。
この背景には「チームの長期低迷」「若手中心のチーム再建」「デューク大のザイオン・ウィリアムソン獲得」といった目的があり、ニックスはなるべく低い順位でシーズンを終えたかったんです。
こうした状況でカンターはプレータイムがもらえないという不満を公言していました。*3
ニックスはシーズンオフに大型FA選手獲得を狙っていたという状況でもあり、バイアウトでカンターを放出することに合意。
その後FAとなったカンターはポートランド トレイルブレイザーズと契約します。
センターのユスフ・ヌルキッチが怪我をした穴を埋める形でプレータイムを伸ばしたカンターは、ブレイザーズのカンファレンスファイナル進出に貢献することとなりました。
ウェスリー・マシューズ
ニューヨーク ニックス(当時)
クリスタプス・ポルジンギス絡みのトレードでニックスにやってきたマシューズでしたが、カンターのところで紹介したようなチーム状況によってバイアウトで放出されることとなりました。
FAとなったマシューズは、ビクター・オラディポの怪我や3Pシューターの不足でガードを探していたインディアナ ペイサーズと契約します。
ペイサーズとしては$2.3Millionのベテランミニマムで獲得したマシューズが1試合平均30分近くの出場と10得点をあげてくれたことは、リスクも少なく有意義な契約だったと言えるでしょう。
実際のところバイアウト市場の選手がNBAに大きな影響を与えるということは稀ですが、このようにプレーオフを戦うチームがピンポイントでベテラン選手を補強したり、ケガ人によるDPEなどで選手を埋める際に活用されたりします。
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まとめ
今回は"バイアウト"について解説しました。長くなりましたが理解できましたでしょうか?
バイアウトを理解することで、チーム状況をより楽しんで見ることができると思います。この記事を読んでNBAをより楽しんでもらえると幸いです。
それではここで改めて今回解説した内容をおさらいしておきましょう。
- バイアウトとは双方合意の元でチームが選手を放出すること
- ウェイブ=「解雇」バイアウト=「退団」
- バイアウト=「交渉・合意+ウェイブ」
- 退団後の保証サラリーを減らしたり無くしたりする交渉を行う
- ベテラン選手が下位チームにバイアウトを要求しがち
最後に
「用語で解るNBA」というカテゴリーでは他にもNBAの解説を投稿していますので是非覗いてみてください。