バスケットボールには様々な種類のスタッツが存在しています。
試合中継で目にするスタッツはFG%やアシスト数などのいわゆるベーシックスタッツが殆どです。
なので最近NBAに興味を持った人からすると "Advanced Stats"に触れる機会はそこまで多くないかもしれません。
そんなAdvanced Statsの中から今回はTOV%(ターンオーバー パーセンテージ)というスタッツに注目してみます。
「ターンオーバー」自体はボックススコアでもよく目にしますが、TOV%とは一体どんなスタッツなのでしょうか?
というわけで今回はTOV%について紹介していきます。
「用語で解るNBA」とは
このブログは知識0からNBAが解るということをテーマにしています。
「用語で解るNBA」では単に用語の意味を知るだけでなく、その用語を通じてNBAを理解していくことが目的です。
その中でもテーマや図解を交えることで納得してNBAを理解できるようになっています。
TOV%
まずはTOV%の概要をざっくりと紹介します。
「TOV%とは何か」「TOV%の計算方法」に注目して見ていきましょう。
TOV%とは
TOV%(Turnover Percentage)はオフェンスを評価する際に用いられる指標の一つ。
ディーン・オリーバー氏が名著『Basketball on paper』で提唱したFour Factors(オフェンスの効率を評価するにあたって重要な4つのスタッツ)の一つですね。
良いチームはこの"Four Factors"が優れているので、分析するならとりあえずコレを見ておけというくらい大事な要素とされています。
ではそんな重要なスタッツであるTOV%とは一体どんなものなのでしょうか?
試しに"TOV%"を検索するとこのような説明が出てきます。
Turnover percentage is an estimate of turnovers per 100 plays.
https://www.basketball-reference.com/about/glossary.html
「100プレーあたり何回ターンオーバーするのかを推定するもの」だそうです。
ということは当然このスタッツが低いほど選手・チームは「ターンオーバーをしない」つまり「ミスで終わることが少ない」ということになりますね。
ざっくり言うとTOV%は「選手・チームのプレーした攻撃のうち、どれくらいがターンオーバーで終わってしまうのか」という点に注目してオフェンスを評価しようというテーマのスタッツなんです。
このテーマを何となく頭に入れて、次はスタッツの計算方法について確認していきましょう。
計算方法
わざわざスタッツの計算を自力でする必要も機会もないとは思いますが、このスタッツをより理解する為にも計算方法を紹介しておきたいと思います。
TOV%は以下の計算式で求めることができます。
0.44という謎の数字が登場しました。まずは慌てずにひとつひとつ紐解いていきましょう。
この計算式の分母では、オフェンスの終わり方に注目して「攻撃回数」を求めています。
そもそもバスケットボールのオフェンスの終わり方には大きく分けて3つのパターンがあります。
では「この3つの数字を合計すれば攻撃回数が分かる」と言いたいところですが、そう単純ではありません。
というのもフリースローは状況に応じて与えられる本数が異なりますので、1回の攻撃あたりの試投数には1本 or 2本 or 3本の場合があります。
そうなると単に「FTA」=「1回の攻撃」と考えるわけにはいかないんですね。
複雑なので詳細は割愛しますが頭のいい人が考えた結果、統計的に「FTA×0.44」=「1回の攻撃」というのが現在の一般的な考え方とされています。
ですので「FGA」「FTA×0.44」「TOV」の3つを合計することによってプレーした攻撃回数が求められるんです。
以上を踏まえて上の計算式が「選手・チームのプレーした攻撃のうち、どれくらいがターンオーバーで終わってしまうのか」というテーマを落とし込んでいるものだとざっくり把握できれば問題ありません。
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- TOV%はオフェンスを評価する指標の一つ
- 攻撃のうちターンオーバーで終わってしまう割合を表す
TOV%の意義
ここまでTOV%の概要や計算方法について紹介してきました。
では次にもう少し踏み込んで、このTOV%の意義を「ターンオーバー数での評価」「出場時間・ペースの影響を排除」というポイントから紐解いていきたいと思います。*1
ターンオーバー数での評価
普段よく目にするターンオーバーのスタッツといえば「ある試合でのターンオーバー数」や「1試合あたりの平均ターンオーバー数」ですよね。
ベーシックスタッツに分類されるこれらのスタッツは、シンプルにターンオーバーの多寡を教えてくれます。
一見すると非常に分かりやすいスタッツですが、そのシンプルさ故に欠点もあります。
例えば平均ターンオーバー数がほぼ同じ選手Aと選手Bについて見てみましょう。
この数字を見たとき私たちは「選手Aと選手B同じくらいターンオーバーをする選手だろうな」という推測に至ります。
ではここに1試合あたりの出場時間を合わせるとどうなるでしょうか。
選手Aは選手Bよりもかなり少ない出場時間で同程度のターンオーバー数を記録していることが分かります。
ということは選手Aの方がより「ターンオーバーしやすい選手」だということになりますね。
要するに出場時間の影響を受ける単純なターンオーバー数を見ただけで、本当にミスが多い選手かどうかを判断するのは難しいということなんです。
さらにそれぞれのチームには攻撃のスタイルによってペース(攻撃回数)の差が少なからずありますので、ターンオーバー数はその影響を受けることもあります。
出場時間・ペースの影響を排除
そこで登場するのが今回のTOV%というスタッツです。
先述の通りTOV%のテーマは「選手・チームのプレーした攻撃のうち、どれくらいがターンオーバーで終わってしまうのか」というものでした。
選手・チームのプレーした攻撃回数に対するターンオーバーの「割合」を見るスタッツですので、単純な平均ターンオーバー数にみられたような出場時間やペースの影響は受けませんね。
では先ほどのスタッツにTOV%を合わせて両選手を比較してみましょう。参考までに選手名も追加します。
単純なターンオーバー数だけでの評価とはずいぶん違った印象ですね。
出場時間やペースの影響を受けないTOV%で比較すると、両選手のパフォーマンスにはかなりの差があるということが分かりました。
このようにTOV%を用いることで単純なターンオーバー数だけでは見ることのできない、「実際におこなった攻撃」が「ターンオーバーで終わった」割合を測ることが可能になります。
その結果選手やチームの攻撃が実質どれくらいミスにつながるのかを把握することができ、より踏み込んだオフェンス分析に繋がるというわけなんですね。
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実際のスタッツで確認
続いてはここまで解説してきたTOV%について実際のスタッツで確認してみましょう。
2019-20シーズンの「TOV%チームランキング」「TOV%上位選手」に加えて「TOV%の欠点」についても紹介しておきます。
2019-20 TOV%チームランキング
2019-20シーズンのチームTOV%ランキングは以下の通りです。*2
リーグで最もターンオーバーの少ないサンアントニオスパーズがTOV%でも第1位に輝きました。
ポポビッチHCの元で堅実なプレーをするイメージのスパーズですが、直近3シーズンを見ても実際にTOV%はリーグトップ5以内をキープしています。
ただ逆にこの結果を見ると、TOV%の高いチームは必ずしも勝率が高いというわけでもなさそうですね。
2019-20 TOV%上位選手
2019-20シーズンのTOV%上位ランキングは以下の通りです。*3 *4
ターンオーバー数のランキングではどうしても出場時間の少ない選手ばかりが上位に入ってきますが、TOV%では必ずしもそういうわけではありませんね。
7位のニコラ・ブチェビッチや22位のCJ・マッカラムはターンオーバー数が飛び抜けて少ないわけではありませんが、TOV%ランキングで上位に入っています。
ちなみに第1位のラングストン・ギャロウェイは2018-19シーズンから2連連続でリーグトップの成績でした。
得点数やアシスト数と比べるとTOV%は地味にも思えますが、チームの堅実さ、選手のミスの少なさなど意外な長所に気付かされるスタッツですね。
TOV%の欠点
ここまで解説してきた通りTOV%は「選手・チームのプレーした攻撃のうち、どれくらいがターンオーバーで終わってしまうのか」を知ることができる重要なスタッツです。
しかしこのTOV%が完璧なスタッツかと言われれば、残念ながらそうではありません。
特に選手のTOV%について改めて考えてみましょう。
途中で紹介したオフェンスの終わり方3パターンというのは、バスケットボールにおける「チーム全体でのオフェンスの終わり方」のことです。
そこで選手個人のオフェンスについてよく考えてみると、3つのパターンの他にも「パス」という終わり方を忘れていた事に気付きます。
例えば選手Aがいいアシストパスをして、チームメイトがシュートを決めた場面をイメージしてみましょう。
このオフェンスにおいては選手Aはシュートも打っていませんし、フリースローも打っていませんし、もちろんターンオーバーもしていません。
ということは参加しているオフェンスであっても、選手Aにとっては「攻撃の終わり方3パターン」には当てはまらないわけです。
そうなるとTOV%計算式の分母にもカウントされませんので、その分TOV%が少し高くなってしまいます。
つまりこのTOV%というのは選手が関与した攻撃、それも実際にポゼンッションの終わりに直結しているものに焦点を当てているスタッツであるということなんです。
その結果、アシストで攻撃を終えることが多い選手のTOV%が思ったより高くなる場合もあるんですね。
なので選手のTOV%はあくまで「ポゼンッションの終わりに直結したもの」のみにフォーカスしているというコトを頭に入れておく必要がありそうです。
逆に言うとチームの場合はどんな攻撃でも3つのパターンに当てはまるので、こういった欠点を気にする必要はありませんね。
今回のTOV%に限らずスタッツというものは、あくまで選手やチームを評価する際に用いられるツールの一つです。
より的確な分析をする為には、今回の記事で紹介したようにスタッツのテーマや考え方をしっかりと理解し、それらを複合的に検証していくことが重要だということですね。
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まとめ
今回はTOV%について解説しました。
スタッツの意味やテーマを把握し、それを知りたい情報に応じて組み合わせることでもっとNBAを楽しむことができると思います。
ではここで今回紹介した内容を改めておさらいしておきましょう。
- AST%はオフェンスを評価する指標の一つ
- 攻撃のうちターンオーバーで終わってしまう割合を表す
- TOV数は出場時間・ペースに影響される
- どれくらいミスで終わるのかをTOV%でより正確に把握できる
- 選手のTOV%には欠点もある
- TOVに繋がらなかったパスが考慮されない
最後に
今回解説したTOV%に基づいて「NBA史上最もミスの少ない選手TOP10」などもランキングで紹介していますのでこちらも合わせてご覧ください。
「用語で解るNBA」というカテゴリーでは他にもNBAの解説を投稿していますので是非覗いてみてください。
→「用語で解るNBA」カテゴリーの記事一覧
(参考)
https://www.basketball-reference.com/
https://bleacherreport.com/articles/1039116-understanding-the-nba-explaining-advanced-offensive-stats-and-metrics
*1:ここで紹介するスタッツは2020.5.1時点でのhttps://www.basketball-reference.comより抜粋
*2:2020.5.1時点でのhttps://www.basketball-reference.comに準ずる
*3:2020.5.1時点でのhttps://www.basketball-reference.com及びhttps://stats.nba.com/players/advanced/に準ずる
*4:出場試合数等の最低基準に満たない選手は含まない